今週のお題「行きたい国・行った国」
1989年秋、ジェット機はビル群スレスレを飛行し、香港国際空港に着陸した。
人生初の海外旅行は大学の卒業旅行だった。
当時、映画界には香港ノワールというジャンルが存在していた。香港の裏社会や犯罪を描き、男同士の絆や対決がストーリーの軸になっている。
日本のテレビの深夜枠でよく放送されていて、私はその世界観にすっかり魅力されていた。
もちろん、滞在中に映画でみたような撃ち合いやカーアクションには遭遇しなかった。けれど、画面から感じた日本にはない危なっかしい雰囲気、無国籍な光景を肌でかんじることができた。
宝石店の入口に立つ、ライフルを持ったインド人達。紙幣を蛍光灯にあて、しつこくニセ札でないかを疑うレジ打ち。やたらとぶつかってくるスリ達。
中国に返還される8年前に私は香港にいた。
アジア随一の大都会の喧騒と雑踏の中を歩いていた。
学生生活を終える不安、寂しさを振り払うように。スクリーンに登場する男たちのように。